2023年も、もう残すところわずかとなりました。
月並みなことを言いますが、月日の流れの早さには本当に戸惑ってばかりです…。
さて、今年もたくさんの本と出会うことができました。(と言っても並べてみると20冊ぐらいでしたが)
今年読んだ本の中から、特に印象に残った本をご紹介したいと思います。
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目次
・『プリズン・サークル』(坂上香/著 岩波書店)
島根にある刑務所の施設(島根あさひ)で行われた、「TC」という更生プログラムを受けた受刑者たちのお話です。
TC(Therapeutic Community=回復共同体)」は、依存症や犯罪などの問題を、当事者たちの力を使って共同体の中で解決していこうという試みです。
こちらの刑務所施設では、スタッフと受刑者が物語を作ったり、お互いの話をしたり聴きながら、過去や罪について考えていく仕組みになっています。
元はドキュメンタリー映画です。
犯罪を育ってきた環境、親、社会のせいだけにはできないけれど、受刑者たちの過去には胸が痛みました。
受刑者は、実の親や保護者からひどい暴力による虐待、ネグレクトを、幼い頃から長期間に渡り受けていたケースが極めて多いのです。
幼い頃からそういう仕打ちを大人や周囲から受け続けると、どうなるか?
感情が喪失するのです。罪を犯した自分と向き合うこともできない。
「暴力は人を呑み込んでしまう津波みたいなもの」と本著で書かれていましたが、本当にそうだと感じます。
そして、暴力は連鎖します。
長期間にわたり、ワークや受刑者同士の語り合いを通じて、受刑者たちが失った感情を少しずつ取り戻し、自分自身の過去の経験(トラウマ含め)、そして罪と向き合うさまを見て、やはり犯罪に対しては厳罰化に頼ることだけでは足らず、負の連鎖を止めるこうした更生のための活動はとても大切だと感じました。
TCを受けた受刑者とそれ以外では再犯率に大きな差がある、ということも本著に書かれていました。
…とはいえ、実際に自分や自分の大切な人たちが被害者になるようなことになったら、私は加害者のことをそう簡単には許せないと思います。
めちゃくちゃ憎むし、厳罰に処してほしいと願うでしょう。
この手で制裁を加えたいと思うでしょう。
この本には、被害者でありながら、加害者の更生や加害者との対話による和解に理解を示し、関わっている方の話も書かれていて、胸が打たれました。
自分が被害者あるいは被害者の家族になった時、自分は果たしてそういうことができるか??
社会のあり方について、自分自身について、子育てについて…色々と考えさせられる本でした。
・『ミドル・パッセージ:生きる意味の再発見』(ジェイムズ・ホリス/著 コスモス・ライブラリー)
「中年の危機」に対する乗り越え方が書かれた本です。
中年という時期は、経済的にも精神的にも安定している時期に思えて、いろんな試練が与えられる時期です。
経済的に安定していて家族もいるのに強い空虚感を抱えてそうな人、
家庭と自己実現の狭間でこれからの生き方に葛藤を抱えてそうな人、
他の異性の出現等で夫婦関係の危機に陥っている人、
…周りを見渡してもたくさんいるような気がします。
こうした中年の危機は誰しもが陥る可能性があるということ、そして、中年の危機を乗り越えるには、自分自身の過去や内面と深く向き合うことが必要だということがよく分かります。
私にも思い当たるような、刺さる言葉がビシビシ書かれていました。
世の中で間違っている何かは、自分の中で間違っている何かであり、結婚生活の中で間違っている何かは、自分の中で間違っている何かなどと言うことは、相当な勇気を必要とする。しかし、そのように謙虚になったときこそ、わたしたちは、自分達の暮らしているこの世の中をよくすることに着手しているのであり、人間関係や自分自身を共に癒すための条件をもたらしているのである。
親密な関係についての真実として言えるのは、それがわたしたちの、自分自身との関係以上のものにはなりえないということである。わたしたちが自分自身とどんな関係を持っているかということが、相手の選択だけでなく、その人との関係の性質も決定する。事実、あらゆる親密な関係は、わたしたちがその関係を始めた瞬間に、わたしたちがどんな人間であるかを暗黙のうちに暴露するのである。
自分に起こる理不尽なことの全ては自分に原因がある、という考え方を私はそこまで強く支持しません。
自分の心を守るために、相手や環境のせいにすることも時には大切だと思っています。
でも、やはり、心の安定や充実感をいつも持った状態で生きるには、人は“自分自身を旅する”ことが不可欠なんだと思います。
中年期の方々はもちろん、もっと若い世代の方にもおすすめです。夫婦関係の危機の乗り越え方や、夫婦に訪れる危機の意味がよく分かります。
また、子育てにおいて気をつけた方がいいことについても、自分自身がどんな幼少期を送ってきたかを振り返りながら学べるかと思います。
(ただ、少し心理学の専門用語が多く、心理学に詳しい方や興味のある方は読み応えあると思いますが、そうでない方はちょっと読み進めにくいかもしれません。)
・『「結局、何が言いたいの?」と言われない「1分で伝わる」技術』(沖本るり子/著 大和出版)
1分トークコンサルタントで、「5分会議」の提唱者、沖本るり子先生の最新刊です。
「伝えたつもりで、伝わっていない」ことの危険性、そして、報告や相談、商談、プレゼンや会議で使える『伝わる伝え方』について、詳しい事例とともに書いてくれています。
すっごく分かりやすかったですし、「ああそうか、こう伝えれば良かったんだ!」「この伝え方、カッコイイ!ステキ!」と思わず唸ってしまう伝え方が盛りだくさんでした。
社会人なりたてほやほやの人たちや、「話すのがどうも苦手…」という方、「話し方にもっと自信をつけたい」という方におすすめしたいです。
*紹介記事をうれぴあ総研で書きました*
・『毎日読みたい365日の広告コピー』(ライツ社)
本のタイトル通り、過去のいろんな商品や企業広告で使われたコピーが365日分書かれています。
表現力の勉強になりましたし、「定期的に読み返したいな」と思える良書でした。
読むたびに(ページを開けるたびに)新しい発見ができそうです。
あと、今だったらこのコピーは倫理的・道徳的にアウトだろうな…というのもたくさんあって、時代の移り変わりの激しさを感じました。
世の中は、正しさを盾にして、どんどん不自由になっている気がします。
良い悪いの価値観も、人の許容度も、どんどん移ろっていくもの。あんまりこだわりを持たないで生きていくことって大事だなということも改めて思いました。
私が特に気に入ったコピーを5つ抜粋してご紹介します。
彼女を呼ぶならこっちの部屋かなーと、彼女がいないのに考えたりした。
【アットホーム】雑誌 2011年 コピーライター:大貫冬樹(電通)
伸び悩んでいる日々も髪は毎日伸びている。ワタシという生き物は、案外しぶとい。
【WARP Hair Craft】ポスター 2012年 コピーライター:長岡晋一郎(北海道博報堂)
人類史上、一番続く争いは「言った言わない論争」だ。
【ボイスレコーダー/山善】ポスター 2013年 コピーライター:矢野貴寿(電通関西支社)
20代の投票率、約35%。
60代の投票率、約75%。
あなたが政治家なら、どの世代に向けて政策を練るだろう。
【読売新聞社】ポスター 2013年 コピーライター:戸部二実(カラビナ)
地震は減らせない。でも被害は減らせます。
【ミドリ安全】新聞 2010年 コピーライター:高橋修身
あなたが「おっ!」と思うコピーも、本の中にきっとあるんじゃないでしょうか?
これは読書苦手な人もスラスラ読めるかと思います。おすすめ。
・『イーロン・マスク(上・下巻)』(ウォルター・アイザックソン/著 文藝春秋)
電子決済システム(ペイパル)、電気自動車(テスラ)、宇宙開発の会社(スペースX)を作った、世界的に有名な起業家イーロン・マスクの、これまでの軌跡が記された初めての伝記です。
なぜこの本を手に取ったか?と言うと、私はX(旧Twitter)のヘビーユーザーなんですが、イーロン・マスクがXを買収してからの動きがおもしろすぎて、私の中で「めちゃくちゃ気になる人」になってしまったのです。
Twitterは2006年にサービスを開始したSNSで、ずっとTwitterという名で親しまれてきましたが、イーロンはCEOになると「X」という名称に突然容赦なく変えてしまいます。
イーロンがCEOになってからすごい人数の社員が解雇されたし、なぜか突然他の方の投稿が長い時間読み込めないなんてこともあったし、突然自分がCEOを辞任すべきか否かのアンケートをTwitterで実施して本当に辞めてしまうし(現在はCTO)、それまでなかった課金システムなんてのもいきなり作るし、ものすごい動きが早くて激しくて、おもしろいんです。
こんな動きをする人の幼少期や学生時代って、どんな風だったんだろう?
どんな信念を持って生きているんだろう?
次は何を考えてるんだろう?
と、好奇心がとても湧いて、手に取ったのです。
一人の人物の歩んできた人生を読んでいるというよりも、一つの壮大な映画を観ているような感覚に陥りました。
やってきたことのスケールが大きすぎるし、スピード感もすごい。
Chat GPTで今話題の、生成AIの開発にもイーロンは関わっています。(Chat GPTはOpen AIという会社が開発したのですが、元は非営利団体の研究所で、イーロンとサム・アルトマンが立ち上げました。2人は仲違いをしてイーロンは取締役を退くことになり、マスクはその後、X・AIという新会社を立ち上げています。)
イーロンの歩んできた道は、人類の進化の歴史と言っても過言ではないでしょう。
そして、イーロンの行動や思考を読むことは、未来を知る手がかりになると思いました。
イーロンは宇宙に強いこだわりを持っていますが、イーロン自身が宇宙人なんじゃないか?と感じました。宇宙開発にものすごいエネルギーを注いでいるのは、故郷である宇宙に還ろうとしているのかな…、と。そう思わせるぐらいの規格外の人物なんです。
幼少期の話、恋愛関係、結婚生活、仕事の人間関係、すべて波瀾万丈なので、読み物として本当におもしろいです。(まあこんな偉業を成し遂げる人物がマトモなわけありませんわね。)
・『方舟』(夕木春央/著 文藝春秋)
ミステリー・サスペンス小説です。
X(旧Twitter)で、フォローさせていただいている方2人が「おもしろかった」と投稿していたのを目にして、手に取ったのです。2019年にデビューされた作家さんです。
<あらすじ> 大学時代の友達たちと従兄と共に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになる。 翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれる。 さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する…。 そんな矢先に殺人が起こる。 「だれか一人を犠牲にすればこの地下建築から脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ」 誰もがそう思った。 一体誰が犠牲になるのか?犯人は誰なのか…?
昔に夢中になってよくやったホラーゲーム「かまいたちの夜」を思い出して、初めて読む小説なのに、なんだか懐かしい気持ちになりました。
もう展開が気になって気になって…すいすい読み進められました。
凄惨なシーンや描写も多いんですけど、読後は不思議と暗い気持ちにはならず、むしろ、スカッとするというかスッキリしたというか。
夕木春央さんの小説、今回初めて読んだのですが、他の作品もたくさん読んでみたいなと思いました。面白かった!!
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